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「大阪市立大学医学部50年誌」(1994.11.27)より

 

推計学研究室のあゆみ

 

 大阪市立医学専門学校の当時、研究室の形態はそれほど明らかではなかった。数学・統計学の教育は杉山博講師が担当していた。杉山は統計理論の研究や、衛生統計・理論疫学などの応用面の研究にも力を入れた。また、医学全般にわたる統計学の必要性を力説し続けた。1961(昭和36)年、杉山は大阪大学に転出(現大阪大学名誉教授)した。

 大阪市立大学医学部という現在の体制になった後、1963(昭和38)年4月、各方面の努力が実り、推計学研究室が設置された。この際大阪府立大学より北畠曉が助教授として、本学大学院医学研究科修了の阪本州弘が講師として赴任した。医学部にこのような形で研究室を置く例は、他の大学でもあまりなく、ともすれば基礎的自然科学と医学との教育・研究に遊離の見受けられる状況から、当時としては画期的なことといえる。

 当初、北畠は数学・統計学の教育と理論研究を中心とし、阪本は、応用面での活躍を続けた。いわゆる境界領域での研究の必要性が指摘されだした時期で、他の科学との結び付きにより、統計学の有用性が意識され始めていた。北畠は医学への応用を重視し、本学部の臨床推計学を担当するなどの活動も始めた。阪本は、理論疫学が主たる研究テーマで、雑誌「理論疫学研究」の編集責任者としての活動なども行なった。1971(昭和46)年、阪本は公衆衛生学教室に転出(現兵庫医科大学教授)し、1974(昭和49)年、本学理学部より鈴木武が講師として着任した。

 1968(昭和43)年に大型電子計算機が本学に設置されたことは、研究面でも大きな変化を与えた。計算機を利用した研究の主なものに、病理学教室の嶋崎教授らとの病理組織学的な病型分類のためのクラスター分析、衛生学教室の堀口教授との職業性頚肩腕障害に対する判別分析等がある。鈴木は確率変数の極限分布に関する研究など、理論面での活動に加え、計算機の医学への応用に対応すべくプログラム整備なども行なった。

 1976(昭和51)年、鈴木は早稲田大学に転出(現早稲田大学教授)し、同年、大阪大学基礎工学部より磯貝恭史助手を迎えた。これに前後する時期から、統計学会においても医学・生物学に対する応用が重視され始めた。北畠は1978(昭和53)年、1981(昭和56)年と相次いで多変量解析の医学に対する応用を発表した。また、大阪大学における統計研究会では毎年秋、医学における応用の紹介ならびに研究発表を行なった。この間、1980(昭和55)10月に北畠は教授となった。

 磯貝は多変量解析の研究を中心とし、「多変量解析の統計データ解析」(Gnanadesikan, R.1977年)の出版(共訳)、多変量正規性の研究を行ない、統計量の分布の計算機シミュレーションによる検証も行なった。また、生物学研究室との共同研究のねずみの成長曲線、生息数のシミュレーションなども行なった。

 1984(昭和59)年、磯貝は大阪大学に転出(現大阪大学助教授)した。同年、本学理学部より福井充が助手として着任し、従来より当研究室で進められていた泌尿器科学教室との腎不全透析患者の実態調査、池田市医療センターの就学前の虫歯の実態調査の分析などに着手した。福井は環境衛生学教室とともに鉛、有機溶剤等の体内動態に関する研究も行なった。また、公衆衛生学教室の行なっている住民健診や栄養調査などでのデータ処理・解析への協力、調査法の共同開発なども行なっている。

 1980年代後半(昭和60年代)より、パーソナルコンピュータの性能が向上し、計算機の利用形態が変化してきた。従来では利用するのが困難であった手法も容易に適用できるようになり、より高度な手法が要求されてきており、より統計学の必要性が高まってきているといえる。

 1991(平成3)年3月、北畠は定年退職(現大阪市立大学名誉教授)に際し、これまでの講義内容・教材を「医学・医療における統計学」(4分冊)としてまとめ、さらにその入門的部分を中心に磯貝、福井とともに「医療技術系のための統計学」として出版した。

 当研究室で担当する講義には、統計学の入門として「統計学」(従来の「数学Ⅲ」)、医学分野での応用として、専門課程の中で、「推計学」がある。当研究室の設置目的の一つに、統計学と医学との結びつきの重視ということがあり、これにそって医学の例題を多用するなどの工夫を行なっている。計算機の利用が一般的となってきている現在、これらを積極的に取り入れた講義方式への転換を模索している段階でもある。情報教育との関連での検討課題も多いといえよう。修業実習では、計算機を利用してのデータ解析に重点をおいた課題に取り組んでいる。

 看護研究の中でも統計的考察が重視されてきており、看護学生への講義や看護部の研修などにも協力している。

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